ヨガレッスンの「ファストフード化」に抗う。魂なき60分セットメニューを消費し続けるあなたへ

BLOG-雑文集

街を歩けば、ハンバーガーショップと同じくらいの頻度でヨガスタジオの看板を目にするようになりました。
「駅チカ徒歩1分」「手ぶらでOK」「月額◯◯円で通い放題」。
まるでファストフードのセットメニューのように、手軽で、安く、そして誰もが同じ味を楽しめるパッケージとして、ヨガは提供されています。

便利になることは悪いことではありません。しかし、その利便性の代償として、私たちが失ったものは何でしょうか?
それは、「深み」と「個別性」、そして「時間」です。

今日は少し辛辣かもしれませんが、現代ヨガが陥っている「ファストフード化」の現状と、それが映し出す現代社会の病理について、リストアップしながら論じていきたいと思います。

 

現代ヨガの「ファストフード化」を示す5つの徴候

1. マニュアル化された「60分セットメニュー」の量産
大手チェーンのハンバーガーが世界中どこでも同じ味であるように、現代のヨガレッスンもまた、均質化されています。
インストラクターは本部から送られてきたマニュアル通りのシークエンス(ポーズの順番)を読み上げ、生徒はベルトコンベアに乗せられたかのように、同じタイミングで右足を上げ、左手を伸ばします。
そこには、目の前の生徒の体調や心の状態、その日の天気や気圧に合わせて内容を調整する(=調理する)余地はありません。「誰が教えても同じ品質」は、ビジネスとしては優秀ですが、ヨガという「対話」においては致命的です。

2. 「時短・コスパ・タイパ」至上主義の侵食
現代社会の病理である「タイムパフォーマンス(タイパ)」への強迫観念が、スタジオにも持ち込まれています。
「60分で確実に汗をかきたい」「1回あたり500円以下でないと損」。
ヨガは本来、時間を忘れ、効率性から離れるための実践であるはずです。しかし、現代人はヨガの時間さえも「カロリー消費」や「ストレス解消」という成果を最短時間で回収するための投資と捉えています。
じっくりと身体をほぐす準備運動や、最後のシャヴァーサナ(休息)が短縮され、派手な動きばかりが詰め込まれるのは、まさに「味の濃い具材」だけを求めた結果です。

3. インストラクターの「アルバイト店員化」
これは指導者個人の問題ではなく、構造の問題です。
短期間の養成講座で大量生産されたインストラクターたちが、低賃金でコマ数をこなすことを強いられています。彼らには、生徒一人ひとりの骨格を見極めたり、哲学的な問いに答えたりする余裕も、経験も与えられていません。
マニュアルを暗記し、笑顔で「ナマステ」と言うことだけが求められる。これは、スマイル0円でハンバーガーを提供する構造と何が違うのでしょうか。

4. 身体感覚の「添加物中毒」
ファストフードが化学調味料で味覚を麻痺させるように、現代のパワーヨガやホットヨガは、過剰な刺激(熱、大音量の音楽、激しい動き)で身体感覚を麻痺させています。
「汗をかけばデトックス」「筋肉痛になれば効いている」。
これらは分かりやすい刺激ですが、ヨガの本質である微細な感覚(スークシュマ)を感じ取る力を奪います。強い刺激がないと満足できない身体になってしまうのは、まさに添加物中毒と同じ症状です。

5. 「消費される」ヨガ哲学
「ありのままの自分でいい」「手放しましょう」。
本来、血の滲むような修行の果てに語られるべき哲学的な言葉が、薄っぺらいキャッチコピーとして消費されています。
インスタントな癒やしの言葉は、一時的にエゴを慰めるかもしれませんが、根本的な魂の飢餓感(渇愛)を癒やすことはできません。パッケージに書かれた「無添加」という文字を見て安心するだけで、中身を吟味していないのと同じです。

 

なぜ、私たちは「ファストフード・ヨガ」を求めるのか?

この現状を作り出したのは、供給側だけの責任ではありません。それを求め、消費し続ける私たち現代人の心の闇が投影されているのです。

思考停止の欲求: 日々の決断に疲れ果てた私たちは、自分で自分の身体と向き合うことを放棄し、「これをやれば正解」というパッケージを求めています。
孤独の埋め合わせ: 誰かと深く関わるのは面倒だが、一人でいるのは寂しい。スタジオという空間で、会話もなく、ただ隣で動いているだけの希薄な繋がり(サンガなき集合)に安住しています。
身体のモノ化: 自分の身体を「資本」や「道具」としてしか見ていないため、メンテナンスも効率的に済ませたいと考えています。

 

「スローフード」としてのヨガを取り戻す

EngawaYogaが提案したいのは、いわば「スローフード」としてのヨガです。

それは、手間も時間もかかります。
自分の今の身体の状態を観察し(素材の吟味)、
必要な動きを丁寧に選び(調理)、
呼吸と共に深く味わう(実食)。

マニュアルはありません。正解もありません。
今日と明日で、やることは全く違うかもしれません。
インストラクターは、答えを与える店員ではなく、あなたが自分自身という素材を料理するための手助けをするシェフであり、シェルパ(案内人)です。

「早くて、安くて、うまい」ヨガはありません。
「深くて、静かで、満ち足りる」ヨガがあるだけです。

もしあなたが、今のレッスンの後で「なんだか慌ただしかったな」「消費しただけだったな」と感じているのなら。
一度、そのベルトコンベアから降りてみませんか。
お茶をすするように、自分の命を丁寧に味わう時間が、そこには待っています。

 


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Kiyoshiクレイジーヨギー
*EngawaYoga主宰* 2012年にヨガに出会い、そしてヨガを教え始める。 瞑想は20歳の頃に波動の法則の影響を受け瞑想を継続している。 東洋思想、瞑想、科学などカオスの種を撒きながらEngawaYogaを運営し、BTY、瞑想指導にあたっている。SIQANという日本一簡単な緩める瞑想も考案。2020年に雑誌PENに紹介される。 「集合的無意識の大掃除」を主眼に調和した未来へ活動中。